計算尺とは

1.計算尺とは

計算尺とは一体なんでしょうか?「『計算尺』っていうからには、計算する尺じゃないの?」とおっしゃる方がいらっしゃるかもしれませんが、実はその通りです。まずは計算尺の写真をご覧ください。

これはHemmi(ヘンミ)計算尺のNO.254WNという型です。表だけで12個のメモリがあります。写真には写っていませんが、この計算尺には裏面もあり、裏面にも12個のメモリがあります。真ん中の尺が左右に動き、計算します。それでは計算尺について詳しく見ていきましょう。

2.掛け算は得意、足し算はできない

計算尺では、掛け算・割り算はできますが、足し算・引き算はできません。ここで、次の計算を比べてみてください。

どうでしょうか?23+13=36はすぐにわかりますよね。でも23×13はすぐにわかるでしょうか?そろばんを習ったことのある人なら簡単に23×13=299だと分かるかもしれませんが、そろばんを習ったことのない人には難しい計算だと思います。これが3桁同士の計算、たとえば、123×456はきっと分かりませんよね(ちなみ123×456=56088です)。でも123+456=579なら簡単です。

この通り、足し算・引き算は暗算でも簡単にできますが、掛け算・割り算は大変です。だから足し算ではなく、掛け算と割り算のできる計算尺が登場したのです。

計算尺は、掛け算・割り算だけではなく、三角関数の計算や、指数・対数の計算もできます。sin15°や、2.3といった計算は暗算では不可能だということはお分かりいただけると思います。(紙と鉛筆を使ってガリガリ計算する方法はあります。)昔、東京大学の入試問題で「ππとどちらが大きいか」という証明問題が出されましたが、証明はできないものの、計算尺を使えばπのほうが大きいとすぐ分かります。こういった計算をすらすらとこなすのが計算尺です。

3.大雑把に計算

計算尺は大雑把に計算します。つまり計算尺は有効数字3ケタで計算します。23×13=299と言った計算は正確に計算してくれますが、12345×67890=838102050は残念ながら正確には計算してくれません。計算尺では12345×67890(1.234×10)×(6.79×10であり、(1.234×10)×(6.79×10)=8.38×10になります。計算尺は計算の際、位取りを無視し、有効数字の部分だけの計算をします。

計算尺には誤差はつき物です。しかし、結論から言いますと、実用上問題ありません。そもそも、計算尺を使う人というのは、数学者のように正確な数字を必要としている人ではありません。主に技術者が使います。技術者が扱う数字は正確な数字ではなく、測定した数字です。

たとえば、「直径1メートルの円を作るには、何メートルのロープが必要か?」という問題があったとしましょう。数学では「円周=直径×π」の公式より、答えはπメートル=3.14159265358979323846264338327950288419716939937510…となります。しかし技術者にとってはこれほどの有効数字は不要で、3.14メートルでいいのです。実用上、有効数字が4ケタ必要になることはめったにありません。3桁までの計算なら計算尺で十分できます。つまり計算尺による誤差は実用上問題ないのです。

ちなみに、有効数字4ケタ以上の精度が必要なときはどうするのかというと、筆算で計算するようにします。三角関数や指数など、筆算でできないものは「数表」や「7ケタ対数表」を使って計算します。

4.まとめ

計算尺は、「面倒な計算を有効数字3ケタですらすら計算する定規の進化形」といったところです。